第56回兵庫県写真作家協会公募展(2023年度)
審査結果
第56 回兵庫県写真作家協会公募展の審査会が、 20223年 9 月 24 日、自然写真家 鈴木一雄氏を審査委員長に迎え行われました。
出品者142名、 出品点数 428点 の中から各賞が決定しました。
総評:審査委員長 鈴木 一雄
今回、初めて兵庫県写真作家協会公募展の審査をさせていただきましたが、応募作品には56回という歴史の重みが宿っていたように感じられました。各地の様々なフォトコンテストと比較すると、「比較的スナップ作品が充実していると同時に応募数も多いこと」「組み写真の割合が多く、成熟度も高いこと」などの特徴がありました。このことは、県内に分散されている指導者層の厚みと、それぞれの会員を熱心に指導されている努力の結実といえるでしょう。
ネイチャー写真については、生き物の分野では情熱をもってシャッターチャンスを追い求めている熱心な取り組みが感じ取れました。今回の県知事賞や兵庫県教員委員会賞などの作品に、その成果が現れています。ただ、いわゆる風景の分野については、他の分野に比べて若干力作が少なかったように思われます。さらなる奮起を期待したいところです。
写真作品は、シャッターチャンスによる偶然性もありますが、被写体のチカラと撮影者のチカラの総合力が問われます。そして最終的に作品に魂を吹き込むのは“感動力”、つまり感動できる能力です。やっかいなことに、人間の体力と同様にベテランになるほど低下するのがこの感動力です。
私たちは感動力を維持し、少しでも高める努力をしながら豊かな写真人生を歩みたいものです。兵庫県に根を張るたくさんの写真作家の皆さんがそれぞれ切磋琢磨し、手を携えながらさらに発展されていくことを祈願します。
兵庫県知事賞
「睨み」
蒲田 美智(神戸市垂水区)
アオサギと思われるが、捕食の瞬間を実に見事なタイミングでとらえている。“勝手に撮るなよ”と言わんばかりに、撮影者に対して睨みをきかせている姿に迫力が満ちている。とりわけ、両方の翼をすぼめている独特の容姿に目を奪われる。とらえられた魚は、必死に逃げようと体をくねられている。弱肉強食の世界をとらえた力作に、作者の執念が宿っている。
兵庫県写真作家協会賞(3点)
「昼下り」
川瀬 茂代(神戸市灘区)
はたしてここは、どこだろうか。建物には、異国情緒の風情が漂っている。それをバックボーンにしながら、花や洗濯もの、そして猫というキーワードをさりげなく配置した作品を組み合わせて“昼下がり”を表現した。透過光や斜光などの光の変化も効果的だ。一点一点の完成度の高さとともに、全体を通して流れている主題の旋律が美しい。
「ナイスキック」
多木 一夫(加古川市)
画面から漂う第一印象は、各地の日常生活の中で繰り広げられているような、どこか懐かしい情景である。あえてローキー調にした露出によって人物の特定が捨象され、かわりに夕暮れの情感と路面の質感が現れている。そしてサッカーボールが親子の間の空中に止めたシャッターチャンスといい、見事な感性と腕前が十分に発揮された作品だ。
「幽玄」
荒木 伸一(明石市)
緻密に計算された組み写真だ。テーマのもとに、撮影取材を積み重ねた痕跡が伺える。光のラインは横・縦・横と配置され、光は、点・線・面という変化をつけている。さらには被写体そのものと光源にも変化のある組み合わせを生み出している。幽玄という題名にふさわしい明りが、それぞれの趣きを放ちながら格調ある作品に昇華している。
神戸新聞社賞
「記憶の残像」
井上 淳一(南あわじ市)
この流木は、果たしてどこから旅してきたのか。どれほどの年月を経て、ここに鎮座しているのか。長時間露出で描いた海は、悠久の時間を内包しているような絵画的流線形になっていて、鑑賞する人に様々な記憶や連想を想起させる。ローキー調のトーンも相まって、心象表現に深みも加わり、格調高い作品に仕上がっている。
兵庫県教育委員会賞
「自然界の荒波」
寺坂 好司(赤穂市)
コウノトリの厳しい子育てをとらえた貴重な組み写真に、感動させられた。左は巣作りに励む夫婦の姿、中央は瀕死のヒナを加えている姿(蘇生を試みているのか)、右は大雨で死んでしまった雛を巣から落とそうとしている場面。一枚一枚の完成度も高く、自然界の荒波の中で生き抜くコウノトリの物語が如実に描かれている。審査委員長特別賞を差し上げたい作品だ。
兵庫県芸術文化協会賞
「天までとどけ」
陶久 哲夫(神戸市中央区)
作品を眺めるだけで、心が癒される作品である。ヒマワリ畑で戯れる兄弟の、純真な姿がとても微笑ましい。とりわけ、ひまわり畑の花を傷めることなく、造花のヒマワリを用意してきて遊ぶ物語に心が打たれる。そのような準備をしたのは誰か、撮影者と兄弟との関係などを知りたくなるが、とにかく楽しい写真だ。
サンテレビ賞
「焔背負う」
浅井 美也子(加古川市)
祭りとは、不思議なものである。日常生活を離れての非日常“ハレ”の舞台で、私たちは一体となって燃え上がる。ケガ人が出ようとも、毎年、その日が訪れると、人々の血はたぎる。観客以上に、祭りの担い手はこのために日々の生活を過ごしてきたかのように必死で邁進する。この作品からは、そのような情熱と火の熱さが伝わってくる。
富士フイルム賞
「光のアート」
嶋﨑 敬子(神戸市北区)
リアルなのか創造なのか、不思議な幻想的な空間と色彩、そして男女の二人だけの時間がとらえられている。各作品は画面構成やレンズの焦点距離を微妙に変えながら、まるで一枚のパノラマ写真のように組んでいるのも効果的だ。鮮やかな色彩と切り絵のようなシンプルな造形もわかりやすい。撮影場所が大阪市の長居植物園と聞いて驚かされた。
兵庫県写真材料商協同組合賞
「人体標本」
河村 成美(神戸市北区)
何ともユニークで、楽しい作品に出合ったものだ。最初は何だろうと思ったが、よく見ると、顔と男女の胴体に似た木々をとらえているのが伝わってくる。タイトルの“人体標本”は納得の命名だ。それにしても、よくぞ探し出したものである。ただ、元気のよすぎる左右の作品と中央の作品との趣きの違いが気になるところだ。
奨励賞(15点)
「晩秋の山里」
別所 孝司(姫路市)
既視感のある光景なのですが、引き込まれそうな不思議な魅力のある作品です。幻想的で物語性もあり、しっとりとした空気感や静けさが伝わってきます。
「里の光景」
小寺 一郎(尼崎市)
まだこのような光景が残っているのですね。日本の昔話に出てくるようなワンシーンです。戸口に佇む人物も効果的です。
「本郷の瀧桜」
竹内 晴行(西脇市)
星空と夜桜の見事な競演です。暗闇が余計なものを省略し、幻想的な光景が浮かび上がりました。妖艶な姿が広い空間の中でより存在感を増しています。
「追憶」
田澤 貴美子(神戸市北区)
荒涼とした場所に生ある草花が宿り、停止した時間が強調されています。崩れ落ちた橋桁など廃線跡を上手く3枚の写真にまとめています。
「一人ぼっち」
石田 麻莉(神戸市東灘区)
真っ赤な紅葉と葉を落とした細い枝をバックに笛を吹くピエロ、晩秋がこの主役にぴったりです。もの悲しげな笛の音が聞こえてくるようです。
「霧の中」
嶋村 保男(神戸市北区)
コスモス畑の中を行く電車、乳白色の霧の中でヘッドライトの光が滲みしっとりとした雰囲気が表現されています。旅情が誘われる一枚です。
「高原に咲く」
岡村 佳代子(川西市)
色鮮やかな見事な花々、美しい光景です。背景に白樺の木立を配したことにより奥行きのある作品になりました。
「秋日和」
上村 隆夫(神戸市中央区)
俯瞰された撮影位置が最適です。パターンになりがちな被写体に黒い畦道を配することにより画面全体にメリハリがつきました。弧を描くようなひまわりの畝や点景の人物も効果的です。
「とんぼ」
小畠 昌人(南あわじ市)
動きの速いトンボの姿をしっかりと捉えた努力作品です。小さな体で懸命に生きる健気さに心打たれます。
「街角Ⅲ」
荒岡 浩志(神戸市長田区)
光と影だけで構成した印象的な作品群です。思わせぶりな表現が観る者の想像をより高め、ドラマティックな作品になりました。
「お散歩」
辻󠄀井 敏子(姫路市)
光のボケが美しい背景に小さなセキレイと大きな足跡、大胆な構成です。人の残像を感じさせる作品です。
「とどくかぁ」
白川 博也(淡路市)
大きなシャボン玉と父娘の後ろ姿を切り絵のように表現、夢のある世界が広がりました。子供の髪型、手の形も愛らしく、楽しそうな笑顔が目に浮かんできます。
「やっさいほっさい」
丸尾 敏道(姫路市)
フレーミングに無駄がなく、力強い迫力のある作品です。祭りの情景を的確に表現されています。
「ランチタイム」
藤原 俊郎(神河町)
昼食時の楽しいひととき、お化粧の下にある素顔の主役たちの表情を上手く捉えています。空を多く配することにより、とても清々しい空気感が表現されました。
「西陽」
中巻 廣介(神戸市東灘区)
暖かな光の中に静かな路地の日常が表現されています。そこで暮らす人たちの穏やかな生活さえも感じ取られます。何気ない光景を上手くまとめられました。
入選(30点)
家 義信 | 入谷 雅治 | 岩村 令子 | 大前 保夫 | 岡島 一郎 |
岡本 直樹 | 奥井 利明 | 海津 昭子 | 階戸三枝子 | 川崎 陽子 |
金 勝彦 | 信部 加織 | 柴田 恵子 | 清水 静夫 | 砂原 和男 |
田代 末勝 | 藤賀 洋子 | 堂上 芳 | 中井 正和 | 長尾 正樹 |
長谷川美恵子 | 長谷川祐作 | 林田 明水 | 福田あゆい | 古家 直紀 |
前田 昭幸 | 道又 俊治 | 村上 光臣 | 森田眞里子 | 山口 剛 |